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2008/07/18

特別講義『企業が若者に期待すること』を聴いてきました (経営情報学科:日當明男)

 去る7月11日(金)に,藤澤先生担当の講義「中小企業経営」において,永田鉄工株式会社の永田孝範専務を招いて特別講義が開催されました.今回は特別に受講登録していない学生の聴講も許可されましたので,私も聴講させていただきました.その様子を報告します.

講義が会社の朝礼!?

 まず,最初に驚いたのは,講義「中小企業経営」の授業スタイルです.講義が,株式会社そうかコンサルティング(仮想会社)の朝礼と社内研修の形態をとっていることです.藤澤先生が社長で受講生が社員です.講義ごとに変わる部長役の学生が朝礼を進行していきます.この日の部長役は3年生の田中真義君.彼の号令のもと,受講生全員が起立し,朝礼が始まりました.

 この朝礼にも驚きです.藤澤先生の著書「和する(ハモる)経営」を地でいくように,お互いを意識し心を合わせる訓練のために,みんなで合唱します.私のように始めて講義に参加した者は戸惑いを感じましたが,いつも講義に出席している学生(社員)は慣れたもので,しっかりとハモっていました.

 ハーモニーの後は,3名の社員を選んでの1分間スピーチ.テーマは『私が大切にしている言葉』.皆,突然の指名にも拘らず,良く話せていました.これだけで終わらないのが,この講義のスゴイところでしょう.何と,それぞれのスピーチに対して,感想を言わせるのです.なかなか人前で話すことも,評価する機会もない学生(社員)は,最初からうまくできるわけもなく,社長の藤澤先生の適切なアドバイスを受けていました.彼らにとって,社会人へ向けた良いステップになるでしょう.

部長役 田中真義君立っている学生が,
部長役の田中真義君

ハモる ハロー♪
ハロー♪
ハロー♪
ハロー♪

1分間スピーチ(船津君) 『やらずに後悔するよりも,やって後悔する』

社長からの一言:専門性は他者によって磨かれる

社長の一言

 1分間スピーチの後は,社長からの一言.今日の一言は『専門性は他者によって磨かれる』.社長自身の経験から,自分で得意と思っている分野よりも,周囲の期待に応えて勉強した分野のほうが,社会から専門として認められたそうであり,現在もその分野での仕事が多く来ているそうです.社長の話を聴いていて,学生時代に受けた社会心理学の講義に出てきた“役割期待”という言葉を思い出しました.『人間は社会的な動物であり,皆それぞれ社会の中で役割を持っている.その役割に寄せられる期待が役割期待であり,それに応えてこそ,社会人として認められる』という内容だったように記憶しています.社長の一言ははまさにそれであり,私も大学教員の一人として,自己主張するばかりの専門ではなく,社会に応えられる専門を持つべきだと痛感しました.これから社会に出る学生には,社会に対する基本的な考え方として,心に留めて欲しい一言です.


特別講義は社内研修:講師は永田孝範氏(永田鉄工株式会社 専務取締役)

講師:永田専務

 本日のメインイベント,特別講義です.永田孝範専務の講演は『先人に学ぶ』という研修として位置づけられていました.永田鉄工株式会社は藤澤先生が指導する『AOGU-15・10運動』(*1)と呼ばれる経営改善に取り組んでおり,その運動の発表会には一部の学生も招待された(その詳細はこちら)ことが部長役の田中君から紹介されました.


中央が講師の永田孝範専務です.→


(*1)AOGU-15・10運動
永田鉄工株式会社の経営改善のための社員を巻き込んだ具体的な活動(藤澤先生の指導による).『A(あかるく),O(面白おかしく),GU(Grow up:一歩前進)』.『15・10』は具体的な経営目標を意味するそうです.この活動の具体的な内容は,藤澤先生の著書『和する(ハモる)経営 報連相の秘密』を参照ください.本書内では,永田鉄工株式会社はN社として紹介されています.

書籍:和する経営 報連相の秘密


藤澤雄一郎著
「和する(ハモる)経営『報連相』の秘密」(新生出版)

新入社員の悩みは今も昔も同じ:『やめようかな』

講師:永田専務

 永田専務の講演は,30数年前の自身の就職時の体験話から始まりました.入社当時の悩みは,今も昔も変わらず,『やりたい仕事をさせてもらえない』.専務も入社(現在とは異なる会社)当時は希望する設計の仕事をやらせてもらえず,雑用のような仕事ばかりだったそうです.不満の溜まる日が続いて,ついに『やめようか』と思い,ある日夜遅くまでかかって,世話になった先生にこれまでの不満や今後への考えを連ねた手紙を書いたそうです.当時は,先生から承諾を得られたら会社を辞めるつもりだったとのこと.しかし,翌日その手紙を持って出勤するのを忘れて投函できず,その翌日もまた同じ,さらにその翌日はバッグに入れて出勤したが投函を忘れたそうです.そのような日がしばらく続いている間に,状況が変わってきて,設計に関わる仕事もさせてもらえるようになったそうです.『やめよう』から『もう少しがんばってみよう』という気持ちに変わり,10年ほどその会社に勤めたそうです.今から思えば,『手紙を出さなくて良かった』,『もし手紙を出していれば,建築関係の仕事を続けていなかっただろうし,今日の講演も無かっただろう』と当時の“投函忘れ”に感謝しているようでした.
  『新入社員なら誰しも,希望した仕事ではないという感覚を持つでしょうが,もう少しがんばってみてください.そうすれば周りの状況も変わり,希望する仕事もできるようになるでしょう』との永田専務のお話でした.これから就職する学生にとっては,とても重要な事です.本人にとっては難しいことでしょうが,受け入れる企業側からすれば,少しがんばってくれる人を望んでいるのかもしれません.
  永田専務のお話を聴いていて,私も思い出した言葉がありました.“周りを変えたければ,まず自分を変えよ”. どこで聞いた言葉か覚えていませんが,やはり実行するのは難しい言葉です.
  ちなみに,投函し忘れた手紙は,封を切らずに現在も大事に持っているそうです.専務にとっては青春時代の宝物だそうです.

面接だけで採用.適材適所,人材開発に注力

 永田専務の次の話題は,永田鉄工株式会社の採用と人材育成についてでした.永田鉄工株式会社が他社とは違う特徴的な点として2つ紹介してくれました.1点は面接のみによる採用です.これだけなら他社でもやっているでしょうが,違いは面接時間です.過去には2時間というものもあったそうですが,今は1時間位だそうです.細かいことまで聞くそうですが,そのやり取りの中で当人の能力,やる気,情熱などを判断するそうです.学生の多くは,このような採用方法を敬遠するかもしれませんが,よく考えてみると,自分にぴったり合った相性の良い会社を見つける最良の方法であることに気づくのではないでしょうか.会社側も,単に知識レベルの高い人材を採るのではなく,人柄や意気込みを見ることができ,入社後の社内の雰囲気に合うかどうかも含めて採用できます.この採用方法に,永田鉄工株式会社の会社経営のポリシーを垣間見る感じです.
 もう1点は,入社1年後の修了試験です.1年間の努力や成果を問い,今後の配属や仕事内容を判断するための試験だそうです.技術的な内容もあれば,会社での取り組みに関する感想,1年間の職場での感想まであるそうです.決して高い点数ばかりではないそうですが,必要に応じて軌道修正をアドバイスしたり,配属を変えることもあるようです.切り捨てるための試験ではなく,適材適所,人材開発を目的とした試験のようです.それ以外にも,受験費用を会社で負担する資格取得支援など,社員の能力開発には積極的な会社のようです.どこの会社も同じかもしれませんが,自分の能力を高めて仕事に生かそうという社員がいれば,会社は応援するでしょう.永田鉄工株式会社では社員40名のうち,建築士資格取得者は13名(1級5名,2級8名)に上るそうです.約3分の1の社員が建築士の資格を持っているのです.最初はそれほど高い能力が無かったとしても,会社や周りの期待に応えようと努力を怠らない社員は,会社にとって財産なのでしょう.永田鉄工株式会社は,社員が努力し,自ら伸びようとする雰囲気を大事にする会社のようです.

AOGU-15・10運動:あいさつは社会人の基本

 次の話題は,AOGU-15・10運動(詳細は,上述の藤澤先生の書籍参照)についてでした.この運動では6つの委員会ごとに目標を掲げて,社員がどこかの委員会に所属して活動しています.その中で3つの委員会を紹介してくださいました.最初は,社員満足委員会の挨拶運動.挨拶は,子供はよくしていますが,大人になるとなぜか少なくなります.『挨拶は,社会人にとって,とても大事なことです』と強調していました.心を伝える挨拶がきちんとできる社員づくり,挨拶が交わされる環境づくりを会社として推し進めています,とのことでした.就職を控える学生にとって,最も重要なことです.習慣化が必要なことですので,すぐに始めてもらいたいものです.

AOGU-15・10運動:報連相には勇気が欲しい

 次は,コンピテンシー・報連相委員会の報連相(報告・連絡・相談)推進運動です.この内容に関連したゲームを用意されていました.聴講者全員に1枚ずつ半紙が配られました.半紙が全員に行き渡ったところで,次のような指示を出しました.
報連相テスト結果 報連相テスト   『まず,2つに折ってください』
   『また,2つに折ってください』
   『そして,角をちぎってください.』
   『また折ってください.また,角をちぎってください』
   『もう1回,折ってください.また,角をちぎってください』
   『では,紙を広げてください』
   『周りの人と同じように穴が空いていますか』

報連相テスト結果 私も一緒にやっていましたが,どこの角をちぎればよいのか悩んでいるうちに先に進んでいったので,適当に角をちぎって最後までやってみました.幸い,私の周りの人たちの穴の空き具合は同じでしたが,全体では何人かが違った空き方になったようでした.実はこのゲーム,“報連相”のテストだそうです.指示も最初は丁寧に与えたものの,だんだん雑(曖昧)にしたそうです.そうすると,話し手と聞き手の間に少しずつ解釈のずれが生じてくるのです.特に,私が悩んだように,どこの角か分からない時は,尋ねることが必要とのことです.これが相談.尋ねて得られた事を回りに伝えること.これが連絡.最初の指示を与える報告と併せて,しっかりとした報連相ができていれば,みんなが同じ結果になったはず,とのことでした.もし,相談する勇気を誰かが持っていれば,先ほどのゲームは全員同じ結果になっただろうとのことでした.報連相は今後の社会の中で生きていくために絶対必要なもの.その能力をぜひ身につけて社会に出て欲しい,とのことでした.また,相談する勇気に関連して,永田専務がよく言う言葉が紹介されました.それは,『何事にも,4つの気が重要』.4つの気とは,『やる気,根気,元気,勇気』.最初の3つはいろんな場面で見る“気”ですが,最後の勇気も重要であるとのこと.報連相テストでも見たように,この勇気があれば,自分も助かるし,周りも助けられるのです.非常に重く,心に残る言葉でした.

AOGU-15・10運動:脳を鍛えるコミュニケーション

 最後は,管理者懇談会の読み・書き・話すを重視したコミュニケーション推進運動です.非常に基本的な能力ですが,それをレベルアップさせることでコミュニケーションが図られ,報連相も実現できます.すなわち,すべての社会活動を支える基本能力の向上を目指した活動です.この活動には,今日の講義の最初にもあった1分間スピーチも含まれているそうです.この話題の中で,脳の活性化についての話がありました.脳が活性化するのは,字を書く,簡単な計算をする,音読する,おしゃべり,料理を作っているときなど.脳が働かないのは,テレビを見ている,難しい問題を解いているとき(意外でした)など.脳の活性化にとって最も良いのがおしゃべり(話すこと)と,関西出身の芸人を例に出して強調していました.学生の中には,あまり話さない人もいますが,これからは自分から話すように努めてもらいたいとのメッセージもありました.ここで,簡単な脳年齢のチェック法としてカウンティングテストが紹介されました.このテストは,1から120までを声に出して数え,そのスピードによって脳年齢を判断するものです.30秒で大学生レベル,35秒で高校生レベルとのことでした.ちなみに後日自分でやってみたら,36秒でした.今日からはテレビを見る時間を減らさなければなりません.脳の活性化には,意識することが重要とのこと,私も含めて,みなさん,脳の衰えを止めるためにもがんばりましょう.

良い習慣を身につけよう:他人の(良い)考え方を吸収する

 また,『良い習慣を身につけてください』とのメッセージもありました.行動的な習慣だけでなく,考え方の習慣(癖)を身につけることが良い心構えにつながり,人間力が変わってくる,とのことです.『人との話の中でいろいろな気づきがあると思います.そのようなときに,素直に“あっ,そうか”と感じ,新たな考え方を自身の考え方として採りいれていく癖が必要』とのことです.私も似たようなことを聞いたことがありました.“新しい考え方は自分の外からやってくる”.この言葉は,“いくら自分の頭で考えてもその多様さは高が知れている.自分の頭(考え方)の多様性を高めたければ,他人や書籍から異なる考え方を吸収することだ”のような意味だったと思います.常に新しい良い考え方を吸収するような癖を身につけておきたいものです.

AOGU

 この後は,去る5月25日(日)に開催された“AOGU-15・10運動発表会”の記録DVD(ダイジェスト版)の上映でした.この発表会には,一部の学生と私も参加しました(参加報告はこちら).DVDには1年間の各委員会の活動報告の状況や,レクリェーションおよび懇親会の状況が収録されており,社員を大事にしながら,経営改善に向かって,全社一丸となって進んでいる事が良く分かる内容でした.


知行合一

知行合一

 DVDの上映終了後,最後のまとめとして,永田専務はホワイトボードに『知行合一』と書かれました.『知っている事と行いが一致することが大事』とのことでした.私たちは,今日の講演でこれまで知らなかった考え方(価値観)を知ることができました.後は,ここで知ったことをこれからの行動に如何に映すかです.

 これから社会に出る学生に対して,何を重要視すべきか,何をしておくべきか,を示してくれた講演でした.
永田孝範専務,ご講演ありがとうございました.

 

文責:経営情報学科 日當明男